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フランシス・アルバートとの邂逅

 私は10代の後半から20代半ばまでとあるダイニングバーでカクテルを作っていた。

当初は本当に何も知らなかったので、暗記カードを使ってそのお店のカクテルの全ての名前とレシピを書き、覚えた。

その甲斐あって、王道のカクテルの名前であれば大体記憶している。


 現在の私。音楽に没頭し聴き奏で歌う日々を送っているわけですが。

ふと、フランク・シナトラのプロフィールを眺めていたところ、彼の本名が「フランシス・アルバート・”フランク”・シナトラ」であると記載されているのを見つける。「フランシス・アルバート」。どこかで聞いたことのある名前だと思った。しかし私はこの時、この響きは「ウィリアム・スミス氏」、日本でいうところの「山田太郎さん」のような耳馴染み感があったため、そこまで深く考えてはいなかった。が、何となく気になって調べてみた。サジェストに「カクテル」という文字が出てきた。その瞬間、私の記憶の底に眠っていた「フランシス・アルバート」が、暗記カードに書かれたその文字が脳内に浮かび上がってきたのだ。

 現実の引き出しを開け、当時の暗記カードを取り出し、捲っていく。「ロングアイランドアイスティー」の次に、「フランシス・アルバート」の文字。あった。裏にレシピも書いてある。ロックスタイルで、ターキー30・タンカレー30。こんなところにいたのか、シナトラが。そして今頃気づいたのか、私は。


約10年越しの邂逅に思わず筆を取った(キーボードを叩いた)話。


 記憶が薄かった理由は、実は覚えたきり一度も作らず、のちにメニューから無くなっていったからだと思う。

 ちなみに、「ブルームーン」というカクテルも存在していて、私は当時(二十歳過ぎ)からこのカクテルが(名前も味も)好きでよく作らせてもらっていたのだが、私が一番好きなフランク・シナトラのブルームーンに出会ったのはこれよりもずっと後だったりする。

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